【高松】松原製本所・松原英樹さんインタビュー「人と人との『想い』を綴じる仕事」

  • この記事は7分以内に読めます。
  • 取材は2021年11月に行いました。

「Re:高松」編集長のオーシカです。

「製本」というお仕事があるのをご存知でしょうか? 文字通り「本を綴じる」ことを事業にする会社が、高松市内にあります。

今回の経営者インタビューでお届けするのは、高松市西春日町で製本業を営む、松原製本所の松原英樹代表。

コロナ禍で印刷業界が大打撃を受けるなか、SNS・地元マスコミで注目の「デカらくがき本」をはじめ、本を綴じることにとどまらないアイデアを次々に形にしています。

「『想い』を綴じる」ということ。小さな会社が本を切り口に広げていく、あくなきチャレンジについてお聞きしてきました!

オーシカ

「10人中1人がファンになる仕事」という言葉が、個人的には印象に残りました。ぜひ最後まで、お楽しみくださいね。

目次

コロナ禍で印刷・製本業界が大ダメージ!

―暗いお話からで恐縮ですが、コロナ禍で、お店やイベントのパンフレット・カタログなどを手がけている印刷業界・製本業界はダメージを受けたのでは?

ダメージを受けた、なんてもんじゃなかったですね。去年から今年にかけて、飲食・観光・イベント関係は軒並み落ち込んだでしょう。

なかなかメディアでは取り上げられることが少ないんですが、印刷関連も大ダメージを受けています。特に、松原製本所では印刷物を「綴じる」ことだけを専門にしているので、印刷会社が落ち込んでしまうと、そもそも仕事が生まれないんです。

今になっても(2021年11月時点)、まだまだ回復しているとはいえないのが現状ですね。

―そうしたなかで、いわゆるB to Bだけにとどまらない、個人消費者に向けた新事業をいくつも展開されていますよね。

うちは従業員十数人の小さな会社だし、自分たちで発信して、仕事を作っていかなければいけないという危機感は持っていました。

松原製本所はうちの祖父が始めた会社で、自分で三代目。自分は製本しか知らなかったけど、それでも10年〜20年前頃までは、断りきれないほど仕事があったんです。

そうするとね、うちも含めて製本会社というものは、いつの間にか鼻が高くなっていった。

「こっちは仕事をしてやっているんだぞ」って。いま思えば、恥ずかしい話です。

去年からやっている個人消費者向けの事業も、自分がやる気になっていればできたんだろうけど…以前の自分は「うちの仕事は本を綴じることだけだ」と思い込んでしまっていて、発想が広がらなかったんです。

本を綴じるだけが製本の仕事じゃないことに気づけた

―「本を綴じることだけ」だったという意識が、どのようなきっかけで変わったんですか?

中小企業家同友会に入って、地域の経営者たちとつながりができたことが大きいですね。

松原製本所の経営理念は『ぬくもりのある思いを一生懸命に綴じます』というものなんですが、これは経営者たちと出会い、会社の理念というものについて、ちゃんと向き合うようになって生まれたものです。

印刷物ってどうしても、無機質な感じがしませんか? たとえばチラシだったら、サッと目を通して捨ててしまうことって多いと思います。

けれどチラシ1つにしても、その背景には、文章を書いた人、デザインをした人、刷った人の仕事や『想い』があります。

「コーヒー1杯100円」という文言にも、お店の利益を考えて150円にしようか? いやいや、お客様のために100円にしようか? という葛藤があったうえでの「100円」という文字じゃないですか。

そういった文字やその背景にある想いを、1つひとつ大事にしてつなぎ合わせていく。作り手も印刷会社も松原製本所も「あなた」も1つに「綴じる」というテーマで、仕事をやっていこうと。

コロナ禍で製本業ができることは? 「デカらくがき本」が生まれた理由

―いま個人消費者向けの事業のなかでも特に注力されているのが、「デカらくがき本」の販売事業ですよね。「かがわビジネスモデルチャレンジコンペ2020」では優秀賞を取られました。こちらは、どんなきっかけで生まれたものなのでしょうか?

デカらくがき本…見開くと縦80cm、横100cmにもなる紙を本のように閉じた、大きなお絵かき帳

(松原製本所 デカらくがき本ショップページから引用)

コロナ禍で製本の事業が苦しいなか、捨てるような紙がいっぱいできて、「何かに使えないかな」と思ったことがきっかけです。

当時、子どもたちは学校に行けず、家で巣ごもり状態だったでしょう。だからといって、外に遊びにも行けない。そこで、うちに余っている紙を使って、お絵描き帳として使ってもらったら喜んでもらえるんじゃないか。

そう考えたんです。それも、どうせ作るなら製本所にしかできないものを作ろうと思って、一番大きなサイズの紙をそのまま使って、製本して生まれたのが「デカらくがき本」です。

―大人の僕から見ても大きいですから、子どもたちにとってはもう1つの“遊び場”みたいなものですよね。

そうそう。最初、車のディーラーさんのキッズコーナーに置かせてもらったんです。すると、子どもたちが夢中になって、ずっとお絵描きをしているんです。

そうやっていろんな場所を借りてテストを続けるうちに、SNSで話題にしてくれたり、ありがたいことに地元のマスコミが取材に来てくれたりして。

それで、「これは胸を張って世に出せるものだ」と確信して、松原製本所としての、初めての自社商品になりました。デカらくがき本を中心に子どもたちの笑顔が増えていくのを見られるのが、何よりもうれしいですね。

10人中1人がファンになってくれる仕事を

デカらくがき本を商品化するにあたっては、先ほどいった仲間の経営者たちにも意見をもらったんです。

―どうだったのでしょう? テストでは手応えを感じていたわけですもんね。

ところが、仲間たちに集まってもらったら、9割が首をかしげていて(苦笑)。大きすぎるとか、重すぎるとか。なんだとか。正直凹みましたよ。

でもね。1割の人が評価しているのを聞いていて、ハッと気づいたんです。10人中1人が圧倒的なファンになってくれる仕事をしていけばいいんだと。

松原さんが参加している香川県中小企業家同友会でも、デカらくがき本でプレゼンをしたら「大ウケ」したそう。

たとえばデカらくがき本の一番のユーザーは小学2年生の男の子なんですが、デカらくがき本でね、図鑑を作ってくれているんです。昆虫図鑑とか、海の生き物の図鑑とか。大人も舌を巻くほどの作品を描いてくれている。

―将来、学者になりそうなお子さんですね!

そうそう。何ヶ月かに一度お母さんが買ってくれて、「次は恐竜図鑑を作るんだ」なんていってくれているそうです。どんなものが出来上がるのか、とても楽しみにしています。

その子は、まさに自分が使って欲しかった「10人のなかの1人」なんですよね。こういう子が自分の想像力を表現するツールとして、デカらくがき本はあるんだと思います。

小さなお絵かき帳だったら、できなかったかもしれないでしょう。

紙のぬくもりにこだわったクラフトノート「wagami」

―一方で、紙質にこだわった大人向けのクラフトノート「wagami」も、リリースされていますよね。

これも、「10人のなかの1人のために」と思って開発した商品の1つです。紙だったらなんでもいい、書ければなんでもいいというのではなく、紙の手触りや書き心地を大事にしたいという人のためのノート。

自分が製本という業界にずっといることもあって、紙の手触りが大好きなんですね。僕らプロが日頃感じているものを、味わってもらいたいな、と。

ページをめくるたびに気分が高揚するような、そんなノートを目指しています。

頭のなかにあった「やりたいこと」を、抑えつけてしまっていた

―デカらくがき本やwagamiに、短期間でさまざまな商品を発表されています。どこからそれほど、意欲的にアイデアが生まれてくるんですか?

アイデアが生まれてくるというより、もともと頭のなかにあったものを引き出しているような感覚なんです。

自分自身が、小さな頃から本や紙が当たり前にある場所で育ってきて、「こういうものを作ることができたらな」という考えはあったと思うんです。忘れていただけで。

うちは小さな会社ですから、自分が経営者になってからは日々の仕事を追うことだけに必死だったし、「実現するはずがない」「売れるはずがない」「こんなことをしたら人に馬鹿にされるかも」という思いもあった。

いろんなマイナス感情が、自分自身に蓋をしてしまっていたんですね。きっと。その蓋が、先にいった経営理念を見直す機会があったおかげで、外れたのでしょう。

依然として、本業である製本業は大変なままです。

それでも、「自分たちには本を切り口になんでもできるんだ」というパッションがあれば、いくらでもチャレンジできます。

いまは定期的にイベントに出店して、デカらくがき本もwagamiももっと多くの人に知ってもらえるよう、PRを続けています。紙は触って・書いてなんぼなので、一度見にきていただきたいですね。

取材後記と企業情報

お話を聞いていて、アイデアを次々に形にしていく松原さんの発想力と行動力に、大きな刺激を受けました。

特に「10人のなかの1人のために」という考え方は僕も大事だと思っていて、ものがあふれたいまの世の中、万人が必要なものはもうほとんどない。

液晶テレビもスマホもみんなが持っているなかで、「自分1人のためのもの」と感じてくれる商品やサービスを作っていくことが、現代の仕事のあり方なのだと考えさせられました。

そしてそれが、人と人との『想い』を綴じるということなのだと。

松原さんはSNSを駆使して、商品や出店の情報を積極的に発信されています。ぜひチェックしてみてください!

有限会社松原製本所

ショップページはこちら

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